今回は2024年東大理系の第2問(3)の最小値を直接求める方法を紹介します。これを読めば、第2問の出題意図がより明確になるでしょう。

まずは2024年の東大理系の第2問の問題について説明しましょう。数学IIIで習う積分についての問題です。積分で表された関数の最大値や最小値を求めることがこの問題の最終目標で、そのための誘導がついています。

それではいきましょう!


\( f(x) = \int_{0}^{1} \frac{|t-x|}{1+t^2} \, dt \) において,\( t = \tan \theta \) と置くと.\( f(x) = \int_{0}^{\frac{\pi}{4}} | \tan \theta \, – x | \, d\theta \) となる.

任意の \( \alpha \) において,


\begin{aligned}
\int_{0}^{\frac{\pi}{4}} | \tan \theta \, – x | \, d\theta &= \int_{0}^{\alpha} | \tan \theta \, – x | \, d\theta + \int_{\alpha}^{\frac{\pi}{4}} | \tan \theta \, – x | \, d\theta \\[10pt]
&\geq \int_{0}^{\alpha} (x \, – \tan \theta) \, d\theta + \int_{\alpha}^{\frac{\pi}{4}} (\tan \theta \, – x) \, d\theta \qquad \cdots \text{(i)}\\[10pt]
&= \alpha x + \log | \cos \alpha | \, – \log | \cos \frac{\pi}{4} | + \log | \cos \alpha | \\
&\, \qquad \qquad \qquad \hspace{10em} – \frac{\pi}{4} x + x \alpha \\[10pt]
&= \left(2 \alpha \, – \frac{\pi}{4}\right) x + 2 \log | \cos \alpha | + \frac{1}{2} \log 2.
\end{aligned}

ここで,(i) の等号は,\( \tan \alpha \, – x \le 0 \) かつ \( \tan \alpha \, – x \ge 0 \) ,すなわち \( x = \tan \alpha \) のときに成立する.
さらにここで,最後の式の \( x \) の係数: \( 2\alpha \, – \frac{\pi}{4} \) がゼロにになるように,\( \alpha = \frac{\pi}{8} \) とすると,\( \cos \frac{\pi}{8} = \sqrt{\frac{1 + \cos \frac{\pi}{4}}{2}} = \sqrt{ \frac{2 + \sqrt{2}}{2\sqrt{2}}} \) なので,

\begin{aligned}
f(x) &= \int_{0}^{\frac{\pi}{4}} | \tan \theta \, – x | \, d\theta \\[10pt]
&\geq 2 \log \left( \cos \frac{\pi}{8} \right) + \frac{1}{2} \log 2 \\[10pt]
&= 2 \log \left( \frac{\sqrt{2} + 1}{2\sqrt{2}} \right) + \frac{1}{2} \log 2 \\[10pt]
&= \log \frac{\sqrt{2} + 1}{2} .
\end{aligned}

等号は \( x = \tan \frac{\pi}{8} \) のときに成立.故に,\( f(x) \) の最小値は \( \log \frac{\sqrt{2} + 1}{2} \) である.//

※ \( y = \tan \theta \) のグラフを描いて面積を考えると,「明らかに 」\( x = 1 \) で最大値を取ることが分かります.

tan θのグラフは下に凸なので,赤い方の面積 \( f(1) \) の方が大きくなります.

予備校の模範解答と異なり、この解答は微分を用いずに解いています。(1)と(2)の誘導も必要ありません。そう、最小値を求めるだけならこのような「とてもうまい方法」があるのです。
東大が「最小値と最大値を求めよ」と出題した意図がここにあると私は推測します。この「とてもうまい方法」を知っており、この方法を使って欲しくないのでしょう。

数学の理解が深まると、このように問題を通じて出題者の意図を推測し、問題の背景にある数学的な考え方を読み取る能力が高まります。このことを「出題者との対話」と言ったりすることもあります。今回ほどハイレベルな対話ができる必要はありませんが、出題者が問題を通じて伝えようとしているメッセージを理解することで、問題解決の糸口が見つかることがあるのです。「この出題者はどのような意図でこの問題を作ったのだろう。」と考える癖をつけるようにしましょう。

なお、大学以上では「出題者との対話」ではなく、「自然現象などとの対話」、かっこよく言えば「神様との対話」をすることが研究をする上で重要になります。自然の背後に潜むメカニズムを読み取って、研究を進める糸口にするのです。研究者を目指す学生の皆さんは、今のうちから問題の背後に潜む意図などを汲む練習を積み重ねておきましょう。