はじめに
前回は数学における「基礎の成功率」についてお話ししました。
今回は、多くの受験生が気にする「応用力」について整理してみたいと思います。
「応用力をつけたい」「応用問題が解けるようになりたい」と言う人は多いです。
ただ、ここで一度立ち止まって考えたいのは、
- そもそも受験数学で言う「応用」とは何なのか?
- 「応用ができない」の正体は何なのか?
という点です。
今回の記事では、受験数学における「応用」「応用力」をできるだけ具体化し、
勉強の優先順位と精度を上げるヒントにすることを目的にします。
この記事のポイントを、音声で短くまとめました。移動中や作業中の復習にどうぞ。
受験数学でいう「応用」には2種類ある
受験数学における「応用」は、大きく次の2種類に分けて考えると整理しやすいです。
- ① 基礎の積み重ね・組み合わせ(基礎連結型)によって解く
- ② 教科書や標準問題集にはあまり載っていない「特殊なアイデア」(発想追加型)で解く
注意しておきたいのは、実際の入試問題はこの2つが混ざることも多い、ということです。
(「入口は特殊アイデア、出口は基礎の連結」みたいな問題も普通にあります。)
ただ、勉強の優先順位を決めるには、この2つの分類がかなり役に立ちます。
それぞれを具体的に見ていきましょう。
①「基礎の積み重ね・組み合わせ」による「応用」(基礎連結型)
これは、いくつかの基礎的な公式・定理・考え方を「連結」して、少し複雑な問題を解くタイプです。
多くの「応用問題」は実はここに入ります。
例:三角関数 × 二次関数の連結
例えば、次の問題を見てみましょう。
\(y=\sin^{\, 2} x+\sin x+3\) の最大値と最小値を求めよ。
これは基礎連結型の典型的な問題です。
- \(\sin x=t\) とおく。
- 三角関数の基本より \(-1\le \sin x \le 1\) なので、\(-1\le t\le 1\) が分かる。
- 問題は
\(y=t^2+t+3\quad(-1\le t\le 1)\)
の最大値・最小値に変わる。 - 二次関数の基本(平方完成)を使うと
\(y=\left(t+\frac12\right)^2+\frac{11}{4}\)
よって最小値は \(t=-\frac12\) のとき \(\frac{11}{4}\)。 - 最大値は端点で比較して
- \(t=1\) のとき \(y=5\)
- \(t=-1\) のとき \(y=3\)
だから最大値は \(5\)。
このように、教科書レベルの知識・技術を複数つないで解くのがこのタイプです。
このタイプの「応用」の特徴
- 基礎事項が理解できていれば、比較的すんなり習得できる。
- 知らない形でも、手持ちの基礎で押し切れることが多い。
- 受験においては「落とせない問題」に多く、主に防御力(落とせない点を安定して取り切る力)になる。
- 逆に言えば、基礎の成功率が低いと「途中で崩れて完答できない」が起きやすい。
つまりこれは、
できても大きく差がつきにくいが、できないと確実に差がつくタイプの「応用」です。
このタイプを伸ばす勉強のコツ(重要)
「基礎の連結」は、難問を眺めるだけでは伸びません。コツは次の2つです。
- 問題を「基礎パーツ」に分解する練習をする
「この問題は、何と何と何の組み合わせか?」を言語化する。 - そのパーツを「時間内にほぼノーミスで再現できる」まで、基礎に戻って鍛える
「分かったつもり」ではなく、「本番で同じように解けるか?」を基準にする。
ここをやると、「応用ができない」の多くを解消することができます。
②「特殊なアイデアを使って解く」という意味の「応用」(発想追加型)
教科書や標準的な問題集ではあまり見ない(または強調されない)解法アイデアが、
「応用」として語られることもあります。
例えば、
- 定積分で使われる 「1/6公式」(この公式が使える時は計算が一気に短くなる)
- 立体図形で、等面四面体を3次元座標に置いて処理する(難関大受験では頻出の考え方)
のようなものです。
このタイプは「思いついたら勝ち」「知らないと厳しい」という側面があるので、
受験においては主に攻撃力(他の受験生に差をつける力)になりやすいです。
このタイプの「応用」の特徴
- 基本的に、知らないと解けない/知っていると一気に有利になりやすい。
- 「受験生の常識」レベルのものから、「難関大受験生なら常識」レベルまで幅がある。
- 万能なアイデアもあれば、特定の条件でしか使えないアイデアもある。
したがって 「いつ使えるのか」の理解 が必須。
このタイプで一番多い失敗
発想追加型は、次の失敗が本当に多いです。
- 「解説を読んで理解した」=「本番で使える」になっていない
- 使える条件が曖昧で、どの問題で出すべきか分からない
- アイデアだけ覚えて、実際の処理(計算・変形・場合分け)で失敗する
つまり、発想追加型も結局は、
「発想」+「高い基礎成功率(時間内に安定して解ける)」 のセットで初めて武器になります。
このタイプを伸ばす勉強のコツ(重要)
学習を行うなら、次の方針が効率的です。
- 志望校ベースで、必要なアイデアに絞る
特殊なアイデアを何でも集めるのは非効率。志望校の過去問からレベル感を逆算する。 - 1つのアイデアを「条件・典型・再現」まで仕上げる
「どういう形のときに出すか」「出した後の定石は何か」までセットで覚える。 - 使う機会を日頃から狙う
解く前に「これ、あの道具が有効な形では?」と探しに行く姿勢を持つ。
どちらの「応用」を優先させるべきか
結論:まずは①(基礎連結型)が最優先
受験は「1番を取る」競技ではなく、基本的には「合格ラインに入る」競技です。
この状況では、勝ちに行く前に 負けないこと(崩れないこと) が重要になります。
したがって最優先は、
- 基礎の成功率を上げる
- 基礎を組み合わせる(連結する)練習をする
この2つです。ここが弱いまま②に行くと、
アイデア以前のところで失点してしまいます。
②(発想追加型)は「志望大学レベル」と「時期」で決める
一方で、難関大受験では
「②ができないと上位層の中で差がつかない/逆に差をつけられる」
という状況が起きます。
だから②をやるかどうかは、
- 志望大学のレベル(志望大学受験者層の常識)
- 自分の①がどこまで安定しているか
- 今がいつか(基礎固め期か、過去問期か)
で決めるのが合理的です。
ポイントは、
「周りの友達」ではなく「志望校の受験者層」を基準にすることです。
さいごに
最後にメッセージをまとめます。
生徒さんへ
- 「応用ができない」と感じたら、まずは ①(基礎連結型)なのか②(発想追加型)なのか を切り分けてください。ここが曖昧だと、勉強がブレます。
- ①でつまずいているなら、今やるべきは難問を増やすことではなく、基礎問題を「時間内に安定して解ける(=高い基礎成功率)」状態まで仕上げることです。
- ②をやるなら、アイデアを集めるだけで終わらせず、「使える条件」と「再現」まで仕上げてください。
保護者の方へ
- お子さんが「応用が苦手」と言ったとき、単に難しい問題量を増やすのではなく、
①(基礎連結型)で崩れていないか を確認してあげてください。 - 難関大志望の場合は②も重要になりますが、②は「知識の量」よりも、
必要なものに絞って、使える形にすることが大切です。
最後に、この記事の結論を一行でまとめると、
受験数学の「応用」は、①基礎の連結(防御力)と②特殊アイデア(攻撃力)に分けて考えると、優先順位がはっきりする。
ということです。
「自分はいま、①と②のどちらを伸ばすべきか?」
ぜひ一度、直近の模試や過去問の失点を見ながらチェックしてみてください。